ウォームアップ時におすすめのストレッチ方法とは
「ウォームアップ時のストレッチ」として何をしていますか?
運動前にはウォームアップとして軽くジョギングを行い、その後ストレッチをしている方が多いと思いますが、「昔、学校でこうだったから」「ただなんとなく」とやっていませんか?もしそうだとしたら非常にもったいないです。
適切なストレッチは、柔軟性向上や疲労回復など、目的や場面によって異なります。
今回は、ダッシュやジャンプなどの瞬発動作を含んだスポーツに適した、ウォームアップの一環としてのストレッチの方法をご紹介したいと思います。
目次
- ○ ストレッチの種類・特徴・方法・注意点について
- ・スタティックストレッチの特徴・方法・注意点
- ・ダイナミックストレッチの特徴・方法・注意点
- ・バリスティックストレッチの特徴・方法・注意点
- ○ スタティックストレッチ不要? ダイナミックストレッチだけで十分か?
- ・ウォームアップ時におけるダイナミックストレッチの有意性
- ・ウォームアップ時におけるスタティックストレッチの意義
- ○ ウォームアップ時におすすめのストレッチ方法とは
- ○ さいごに
ストレッチの種類・特徴・方法・注意点について
そもそも「ストレッチ」と言っても、どんな種類があるのでしょう。
自分でできるストレッチとして下記3種類があります。
・スタティックストレッチ(静的ストレッチ)
・ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)
・バリスティックストレッチ
では、それぞれの特徴・方法・注意点を順に見ていきたいと思います。
スタティックストレッチの特徴・方法・注意点
<特徴>
柔軟性の向上
伸張反射*を活性化させない
神経の興奮度を低下させる=痙攣を治すのに効果的
*伸張反射とは、筋長の変化を感知する筋紡錘が、筋の過伸展による損傷を防ぐため、筋が大きく、素早く伸張されるとき、反射的に収縮させる運動応答のこと。
<方法>
深呼吸しながらわずかに張りを感じるところまでゆっくり伸ばし、最終姿勢を30秒~60秒保つ。
理想は毎日、最低週3日。1日のうちに複数回行うことも重要。
理想的なタイミングは有酸素性トレーニングや筋トレの直後。
<注意点>
通常、ストレッチ姿勢を保持するにつれて伸張感が弱まるが、弱まらない場合は、伸張が強い可能性があるので、最終姿勢をわずかに緩めて行うようにする。
深部体温が最も低い朝は、柔軟性が最も低下するので、深部体温を上げないで行っても効果的ではない。
瞬発動作の直前にスタティックストレッチを行うと、パフォーマンスにマイナスの影響を与える。
ダイナミックストレッチの特徴・方法・注意点
<特徴>
日常生活動作の向上、スポーツ動作に特異的(=似た動き)。
ミルキング・アクション(筋のポンプ作用)により、心拍数や血流量、体温が上昇する。
相反抑制*を利用しているものが多い。
*相反抑制とは、ある筋肉が収縮すると、その反対の作用がある筋肉(=拮抗筋)には弛緩の命令が出されること。
例1=膝関節伸展による大腿四頭筋の収縮とハムストリングの弛緩
例2=肘関節屈曲による上腕二頭筋の収縮と上腕三頭筋の弛緩
<方法>
動作を伴うが、反動を用いず、筋によるコントロール下で行う。
スポーツや活動に特異的(=似た動き)となるように行う。
最低週3、または活動時には毎回行う。
<注意点>
後述するバリスティックストレッチにならないように注意する。
過度に行わない。
午前中は柔軟性が低いことに留意する。
深部体温を高めてから行う。
バリスティックストレッチの特徴・方法・注意点
<特徴>
反動を用いて、急激に素早く筋を伸張させる。
柔軟性向上、関節可動域の向上には向いていない。
伸張反射を活性化させるため、瞬発動作があるスポーツを行う前にやっておきたい(アスリート)。
<方法>
急な動きによる反動によって、筋ストレッチの限界まで、可動域全体にわたって動作させるストレッチ。
※損傷のリスクが高いので要注意。注意点参照。
<注意点>
伸張の程度や力のコントロールが難しいため、既往歴のある部位はその伸展能力を超えて損傷を引き起こす可能性がある。
スタティックストレッチ不要? ダイナミックストレッチだけで十分か?
私は、ウォームアップの一環としてスタティックストレッチを実施している場面を目にすることがよくあります。
しかし、「神経の興奮度を低下させる」「瞬発動作の直前にスタティックストレッチを行うと、パフォーマンスにマイナスの影響を与える」といった特徴から、ウォームアップのストレッチとしてはスタティックストレッチは用いるべきではないと捉えることができそうです。
ウォームアップ時におけるダイナミックストレッチの有意性
実際、過去20年ほど、スタティックストレッチではなくダイナミックストレッチが適切と言われてきました。ダイナミックストレッチの優位性を上げた例として下記のような研究報告があります。
“大きな関節可動域は主に筋肉と腱の剛性の低下によるが、一方で、ダイナミックストレッチの自発的な収縮に起因する温度や増強のメカニズムへの筋パフォーマンスの改善にもよる。したがって、ウォームアップの目的が関節可動域を増やし、筋力やパワーを強化することである場合、ダイナミックストレッチはスタティックストレッチに代わる適切な方法のようだ。”(筆者訳)
(Jules Opplert,Nicolas Babault. Acute Effects of Dynamic Stretching on Muscle Flexibility and Performance: An Analysis of the Current Literature: Sports Med
. 2018 Feb;48(2):299-325.)
これを読むと、ウォームアップ時はダイナミックストレッチのみで十分と思ってしまうかもしれません。しかし、これによってスタティックストレッチが不要かというと、それは違うと思います。
ウォームアップ時におけるスタティックストレッチの意義
例えば肉離れの既往歴がある場合、その既往歴がない人と比較すると、受傷した筋の柔軟性は劣る傾向にあり、気温が低い冬場はその影響をより感じやすくなります。
こうしたケースでは、ウォームアップとしてのストレッチはダイナミックスレッチだけで十分とは必ずしも言えず、適宜スタティックストレッチを行い、傷害予防を図るべきです。
そして2019年、下記のような研究報告がありました。
『有酸素運動、ダイナミックストレッチ、競技特異的動作を含む完全なウォームアップルーティンに含まれている場合、筋グループあたり60秒以下のスタティックストレッチは、特に高強度の活動(たとえば、スプリントや方向転換)で筋腱損傷のリスクの低下に寄与する可能性があることを示唆し、神経筋の活性化と筋腱剛性は、60秒超のスタティックストレッチと比較して影響を受けないように見える。―(中略)柔軟性と筋腱損傷の予防にプラスの影響を与える可能性があるため、レクリエーションスポーツ活動を開始する前の重要なウォームアップとして含める必要がある。ただし、上級アスリートにおいては、60秒以下のスタティックストレッチは、実施後、筋力、筋パワーのへのマイナスな影響がわずか(Δ1-2%)とはいえ依然としてあるため、注意して適用しなければならない。』(筆者訳)
(Helmi Chaabene, David G Behm, Yassine Negra, Urs Granacher. Acute Effects of Static Stretching on Muscle Strength and Power: An Attempt to Clarify Previous Caveats: Front Physiol. 2019 Nov 29;10:1468.)
私は自らの体験として、ウォームアップ時のストレッチとしてダイナミックストレッチのみの実施は力発揮の際に不安を覚えたことがありましたが、上記研究報告は、私の抱いた不安を科学的に裏付けているのではないかと思います。
上記報告にある通り、上級アスリートについては、わずかな筋力、筋パワーの低下(Δ1-2%)が起こりうる観点から、その適用を注意して行わなければならないですが、それ以外のレベルにある人にとっては、傷害予防の観点から、筋グループあたり60秒以下の短時間のスタティックストレッチをウォームアップルーティンに加えて行うのが総合的に考えて良いのではないかと思います。
ウォームアップ時におすすめのストレッチ方法とは
これまで見てきたとおり、ストレッチにはそれぞれ特徴があり、また、ストレッチに関する多くの見解があります。こうした様々な点を考慮すると、ウォームアップ時のストレッチは、スポーツの多くが瞬発動作を伴う点や、筋温を上げるという点から、下記の順番での実施し、メイン活動につなげることをおすすめします。
1.軽運動(例えばスロージョグ)
2.筋グループあたり60秒以下のスタティックストレッチ
3.ダイナミックストレッチ
4.バリスティックストレッチ(必要に応じて)
⇒メインとなるスポーツへ
さいごに
今回はウォームアップのストレッチとして何が望ましいのかというテーマでご紹介しました。時間が限られた中でウォームアップ、クールダウンの時間を取るのは難しいと思いますが、長くスポーツを実施していくにはとても大切であり、その重要性は年齢を重ねるごとに実感してくると思います(私もその一人です)。
ウォームアップ、ストレッチは、自分の身体の硬さや動きを確かめながら行うと、ちょっとした変化を感じ取り、予防につなげることができると思うので、ぜひ漫然と行わずにやってみてください。